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広報誌gain

睡眠について

世間では睡眠に関する著書や「眠りの質」に関する情報に触れる機会が多くなったように思います。忙しい現代社会で時間を効率的に使うために、また、忙しい中でも自分の時間を確保して自己実現を達成するために睡眠時間をコントロールしようという考えが背景にあるのかもしれません。

ところで、私たちはなぜ眠るのでしょうか。そこには「体内リズム」が大きく関わっています。

ヒトには約25時間を周期とする体内リズムが備わっています。このリズムを大体1日という意味で「概日リズム」と呼びますが、この概日リズムは外界からの光の支配を受けています。つまり、周囲が明るいと活動的になり、周囲が暗くなると眠くなるようにセットされています。

もう少し具体的に説明すると、脳内の松果体から眠気を催すメラトニンというホルモンが分泌されるのですが、このメラトニンは周囲が明るい時には分泌されず、周囲が暗い時に分泌されます。血液中のメラトニンの濃度が上がると眠くなるのです。そして、眠っている間に私たちは疲労を回復させ、身体的な成長や発達が促され、記憶を定着させたりするのです。

では、このリズムに逆らって眠らないでいると何が起こるのでしょうか。ここで気になる情報を一つ、睡眠不足が肥満や糖尿病発症の危険性を高めるというのです。
インスリン縦グラフ

健康な若者の睡眠を6日間4時間に制限した実験により得られたデータによると、@交感神経の緊張、Aインスリンの分泌が高齢者並みに低下、Bコルチゾール分泌亢進という結果が出ました。インスリンの分泌低下とコルチゾールの上昇は相関関係にありコルチゾールは不眠の原因になります。したがって不眠がインスリン分泌の低下とコルチゾールの上昇をさらに促進させ不眠が続くという悪循環に陥るのです。(『快眠で「やせる体質」』、56ページ)ということは、もしかしたら眠りにくい今の季節はみんな肥満や糖尿病になりやすいのかも知れません。

いたずらに皆さんの不安を煽ってしまったかもしれませんがもちろんそれが本意ではありません。そこで今度は眠りにくい状況の中でも何とか上手に眠れないかということを考えてみたいと思います。

ヒトは恒温動物なので大体35〜37℃くらいの範囲で体温が一定に保たれていますが、常に同じ温度というわけではなく、活動すれば体温が上がり、安静にしていれば体温が下がります。また、外気温の変化にも体温は影響を受けます。そしてこの体温も1日の中で周期的に変化しています。

体温は起床後徐々に上昇し、午後7時ごろにピークを迎えます。その後入眠に向けて徐々に低くなり起床前にまた上昇を始めます。つまり、体温が上がると覚醒して体温が下がると眠気を感じるということになります。

したがって、就寝時刻の数時間前に体温を上げる努力をすると眠りやすくなるということが考えられます。例えばウォーキングや軽いジョギングなど汗ばむ程度の運動をする、少し長めにお風呂に入る、あるいは辛い物を含む食事を摂るのもいいかも知れません

反対にこのタイミングで長い時間冷房に当たるとか冷たいものを飲む・食べるといった、体温を下げるようなことは避けたほうがいいでしょう。なぜなら就寝時刻に体温が上昇して眠気が覚めてしまう可能性があるからです。

それでも寝苦しい夜を克服して安眠を確保するのは容易ではありません。そこで暑さに眠りを妨げられた時は日中の仮眠もお勧めです。

お昼ごはんを食べた後に眠気を感じることは誰もが経験していると思いますが、この眠気は昼食を食べた量やそのタイミングとはほぼ無関係に現れます。これはヒトの眠気にもリズムがあるためで、ヒトは1日の中で6〜8時間ごとに睡眠と覚醒を繰り返すリズムで生活しているのです。

日中に取る望ましい仮眠の時間は15〜30分と言われています。あまり長くなると夜の睡眠に支障をきたすので、「ウトウト」する程度で十分ということですね。

さて、ここまでを振り返ってみると、ヒトは光の支配を受けながら、体温のリズムと睡眠・覚醒のリズムに基づいて生活していることがわかります。ヒトは「眠るために起きて、起きるために眠る」のです。それは「眠るために生きている」と言えるのかも知れません

その一方で私たちは「眠りをコントロールしよう」としてはいないでしょうか。最近よく目にするのは、『睡眠は○時間で充分!』という類のタイトルの本です。睡眠は質を向上させれば一般に理想とされる時間よりも短い時間で充分だという考えが述べられているようですが、これまでみてきたようにヒトの睡眠は自分たちで自由にコントロールできるものではありません。むしろヒトが睡眠に支配されていると言っても過言ではないのです。

とするならば、自分のライフスタイルに睡眠を合わせるのではなく、睡眠を中心にライフスタイルを設計するほうが望ましいと言えるのではないでしょうか。その結果として睡眠時間が人と比べて短くてもいいとか、細切れに眠るなどという人が出てくるのは理解できる話です。

とはいえ、そこにさまざまな制約があることは否めません。人間のキャパシティーはある程度決まっていて、各個人の能力には差があるというところから考えて、その能力を最大限に引き出すために「自分に優しい眠り方」を模索して行きましょう。

体温変化と睡眠グラフ

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